桜の思い出~施設看護の魅力~小谷洋子

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【施設看護の魅力】        小谷洋子

 

#桜の思い出

 

桜を見ると思い出す。

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施設で桜とともに逝った方

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なんでも一人で耐えて頑張る方でした。

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振戦が強く、 一人で食事が出来なくなり、

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そのうち吐くようになり、食堂で食事もままならなくなって、

部屋にいることが多くなった。

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言葉が上手く出ないのもあり、言葉もきつく聞こえる。

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痛みや不快に耐えているから、表情も硬い。

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強い方でした。

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一人で全部抱えて耐えているように見えました。

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食事が取れなくなる前からお姉さんとは、

最後の時間をどう過ごすか、折々に話してきてました。

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写真を一緒に選んだり、 旅立ちの時に何を着ていくか・・。

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そんな日が近くなった時、部屋に猫のお菓子が置いてあった。

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その方猫が大好きで、私も時々話に行ってましたが、

なかなか上手く穏やかな感じにはなれなかった。

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他のスタッフも、弱音を吐かない彼女と

なかなか親密にはなれないようだった。

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私達看護師も、”彼女は弱音を吐かない事で

自分と今の現状を保っているのかもしれない”

と思っていたので、静かに聞く事、

無理に話さない方がいい、と感じていた。

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何もできなかった。

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「食べたいものありますか?」

・・
「ない。」

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話は続かない。

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弱音を吐かないから「辛い」と言わない。

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いつも壁の方を向いて寝てるか、目をつぶったままで答えるか・・。

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ともかく短い言葉しか返ってこない。

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お姉さんから、

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「桜が大好きなので桜咲くまで生きようねと言ってるんです。」

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私達は庭の桜が咲くのをどんなに長く感じたか。

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「もってくれ、桜が咲くまで。」

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そう思って過ごした。

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桜が咲いた日の申し送りで 、本人が痛みが楽な時に

声をかけてフルリクライニングの車椅子で

お姉さんとお花見してもらおう、

タイミングを見よう、と。

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お姉さんに

「その時はいつでも声をかけてください。スタッフがすぐに行きますから」

と言っておいた。

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本人が「行く」と言ってくれて、桜の下で姉妹の写真を撮れた。

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そんな事しかできない、それ以外何もできていなかった事に情け無く思っていた。

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だから、写真が撮れてお姉さんが大喜びしてくれて、少しホッとした。

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それから間も無くその方は旅立った。

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好きな着物に着替えてもらい 、

庭の桜の花を枕元に置いて旅立ちの準備が出来た。

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その時 スタッフの一人から猫のお菓子の話が出た。

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誰からもらったのかをその利用者さんは決して言わなかったそうだ。

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ご家族も誰がくれたのか知らないと。

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でも 介護の主任副主任は知っていた。

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そして教えてくれた。

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うちの施設が初職場だという職員が渡したものだと。

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彼女はその方のところによく顔を出してた。

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彼女には打ち解けていたようだ、と教えてくれた。

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私や他の職員がなかなか話が出来ず、

思いも上手く引き出せなかったその人が

信頼した職員がいた事を私は安堵した。

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彼女は黙々と真面目に仕事をする人で、

どちらかというと無口な人という印象だった。

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私は彼女に声をかけて「ありがとう」と伝えた。

・・
彼女は

・・

「すみません。お菓子をあげてはいけないのは知っていました。」

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と言ったが、私は、

「貴方が一生懸命なのはみんなが知ってる。

私はえこひいきしなさいって言ってるし、

みんながなかなか扉を開けなかった方に

えこひいきしてくれてありがとう。

あのご利用者さん喜んでくれると思うし

みんなも救われてる。ありがとう」

・・

と伝えた。

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じっと壁に向かって耐えてただけじゃなくて、

ちゃんと心開ける職員がいた事に救われた。

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私はスタッフに、

・・

「えこひいきしていい。

えこひいきされて嫌がる人は少ないから。

ただ、一人に集中しないようにえこひいきする人は分散してね。」

・・

と伝えてきた。

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・・

施設は知らない人の集まりの中に入って行く。

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生活のリズムも自由度も制限されてしまう。

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でも、その中にたった一人でも、

自分の事えこひいきしてくれるくらい

「好きだ」

とアピールしてくれる人がいるのは、救われる気がするから、

そこに今の自分を肯定できるきっかけになればいいと思っていたから、

スタッフには

「えこひいきしていい」

と話していた。

・・
そして旅立ちの後で・・

「十分な事ができなかったのでは・・」

と思っていた私に、

彼女がいたことでその利用者さんのここでの生活にも救われるものがあった事、

二人の間に絆がありこの施設で最期を送れた事で、

無意味でなかったとほっとした。

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私が施設を辞める時、彼女に

・・

「 これからも利用者さんにえこひいきする、いい介護続けて」

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と、伝えたら、 彼女は胸のネームを裏返して私に見せてくれた。

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そこには桜と旅立った利用者さんの居室にあった名札が入っていた。

・・

「今でも一緒です。」

・・

と笑顔で言ってくれた。

 

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「えこひいき、いい、と言ってもらえて嬉しかった。

ありがとうございます。」

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と言ってくれたその時の彼女の顔を見て、

いい職員になるだろと思った。

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小谷洋子

小谷さん

・プロフィール・
都立病院と神奈川県の公立病院にて病棟勤務。その後 老人保健施設、特別養護老人ホーム、有料老人ホーム、訪問看護ステーションにて主任、所長として、施設の立ち上げ、看護・介護の業務内容の構築、職員研修講師、統括管理など、在宅・介護現場での経験13年。看護師として25年間現場に携わる。
現在、生活看護アドバイザーとして、現場の生の声を聴きながらの業務改善コンサルティング、研修講師(感染症・看取り・認知症・生活の看護など)として活動。キャラバンメイト活動、きらめき介護塾1期生、訪問看護基礎研修終了、JPS1期生(エンドオブライフ・ケア協会認定援助師)、介護初任者研修講師、喀たん吸引研修指導看護師、医療的ケア教員

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